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ふくらむ宇宙服 [資料]

軟質素材型
 従来型宇宙服。軟質素材であるため、内部が1気圧だと真空でぱんぱんにふくらんでしまい、動きづらいので、0.3~0.4気圧の純酸素を使う。(船外活動第1号のレオーノフは、グローブは曲がらなくなるは、エアロックのハッチの直径よりもふくれて入れなくなるはで、死にかけた、と、ソ連崩壊後に述懐している。しかたがないので、彼は宇宙空間でバルブを開き、宇宙服内部を減圧してエアロックに戻った。)
 隅々まで充分に与圧出来るように、ダブダブに作られており、もちろん気圧下げてもふくらむので、内部で頭が振れるようにヘルメットが大きい事も相まって、シルエットがかわいくなる。
 現在の宇宙船内部は(純酸素だったアポロ1号がたいへんなことになったので)窒素を混ぜた1気圧なので、減圧症を防ぐため、予備呼吸といわれるものを数時間かけてやる。(ロシアはやらないという話も)これは実に不便であるため、自在に動ける1気圧宇宙服は宇宙服開発者の夢である。(0.58気圧が、窒素抜きの必要ない最低気圧らしいので、1気圧にする必要はないとの意見もある。)

spacesuit01.jpg
スミソニアン博物館(とか)にあった軟質素材製宇宙服。両方レプリカかもw
右、アポロ型。左、ロシアの月着陸ミッション用(未使用)
photo:私


硬質素材型
 硬質素材で宇宙服を作り、関節部にはベアリング等を入れてることで、屈伸を可能とする。ふくらまないので気圧があげられる。(ただし、曲げた状態で容積が下がるような構造だと同じ事になる。下の写真の左側の宇宙服は、それを考慮して涙ぐましい努力をしているように見える。)ふくらまなくても軟質素材製より構造的に動きにくい、着るのが大変、重い、かさばる、ジョイントが増えるので危険などの問題も。
 見た目がいかちいので、SFにはよく登場。(未来はハードタイプという認識が何故かあり、設定がハードよりの物に多い。ような気がする。)実際に使用されていたJIMという深海用1気圧潜水服があまりにもかっこよかったので、これをもとにデザインされることもあるが、あくまで深海用で、気圧差が1気圧しかない宇宙でそこまで厳つい必要はない。また、パワードスーツとは相性がよく見えるらしく、ほとんどハードタイプのデザイン。(実際には、外骨格の上からソフトタイプ、もしくは後述のMCP型の上から外骨格でもOKで、かえってハードタイプの関節にパワーアシストを入れるのはやっかいのような気がする。)
 NASAはアポロ計画時に試作品をいくつかすでに作っていたが、採用はされていない。輸送手段が安価になり、真空中の作業が日常化したりしたら、1気圧スーツが作りやすいことから、また出てくるかも知れない。

spacesuit02.jpg
スミソニアン別館に展示されていたアポロ計画用硬質素材宇宙服(1960)
右側の説明文には「高圧型」と明記してあり、アポロ型の3.7psiに対し、5psiで運用出来たとあった。
photo:私


ハイブリッド型
 NASAのHスーツなど。軟質素材と硬質素材を混ぜて作ったり、関節部にだけベアリングを入れたりするもの。次世代スーツとしては本命。構造は様々。高圧型案も存在する。現行のEMUユニット宇宙服もこの仲間(胴体上部が硬質素材)とする場合もあるが、減圧型である。
 デザイン的には余り面白くはない。
H-suit(1994-2000)
h-suit.jpg
I-suit 後方エントリータイプ(2005~現在も開発中)
i-suit.jpg
引用元:http://www.hq.nasa.gov/alsj/ILC-SpaceSuits-RevA.pdf
ごめん、けっこうおもしろいかも・・・



メカニカルカウンタープレッシャー型
 軟質素材を体ぴったりに縫製し、与圧を気体ではなく、宇宙服の素材で外部から押さえつけることで行う宇宙服。ふくらまないので動きやすく、運ぶのにもかさばらない。反面、必要な圧力(4.3psiとある)を得るためには非常にタイトにする必要があり、着脱が大変だったり、タイトであるため何かにぶつかったりするとダイレクトに中の人に衝撃がいってしまうなどの弱点もある。100%うまくいけば、従来的な意味での「気体での与圧」はヘルメット内部だけになるなので、動きを妨げる要素が無く、気圧を上げることが出来る。MIT作の宇宙服、Biosuitが有名。
 ボディーラインがタイトに出るので、デザインと科学設定にこだわりのある日本のアニメ界はもちろんとびつき、ストラトス・フォーやロケットガールといった、女の子が宇宙に行く作品で、ほぼ素っ裸に近いほどタイトなものが採用されている。(だがおっぱいは揺れる。)逆に2007年のBiosuit発表会では、モデルに女性を使い、ポーズをとらせるなど、MIT側もあきらかに狙っていた。(性的な意味で・・・というよりは、スリムであることを強調する意図だったと思われる。ノリノリになってしまっただけかも知れないが。)アニメと言えば、機動戦士ガンダムの「ノーマルスーツ」などもぴっちぴちだが、MCP理論に基づいているのかは知らない。
 なお、パルプ雑誌の表紙や、60~80年代のSF映画などでも、女性がぴっちぴちにタイトな宇宙服を着ていることがあるが、関係はない。ないはずだ。ないよな?MIT
Biosuit(2007)
biosuit1-enlarged.jpgbiosuit2-enlarged.jpg
Photo:Donna Coveney
引用元:http://web.mit.edu/newsoffice/2007/biosuit-0716.html

SAS(1968)
Space_activity_suit.jpg
引用元:NASA CR-1892
SAS1.png
引用元:http://chapters.marssociety.org/winnipeg/sas/sas.doc

<追記>
 Biosuit以前に、SAS(Space activity suit)というスキンタイトスーツがあった事が分かったので、ちょっと記述をいじった。こうしてみると、ストラトス・フォーはSAS、ロケットガールはBiosuit(背中の保護パッドなんかまんま)を元にデザインされているのが分かる。そしてモデルはおっさんよりも女性の方がいいな、というのもわk(ry
 なお、ラリー・ニーブンの小説にすでに出てくるらしいので(覚えてないなぁw)SF映画の女の子が着ていたぴっちりスーツはひょっとすると、考証されていたのかも知れないw

参考リンク
ILC Dover
 アポロスーツから最新のIスーツまでを作ったメーカーHP
http://www.hq.nasa.gov/alsj/ILC-SpaceSuits-RevA.pdf
 ILCの宇宙服の歴史を綴ったPDF。図版いっぱいで楽しい。見るべき。
BioSuit - Overview
 MIT、BioSuitのページ。

*疑問点*
 潜水病を防ぐため、ダイビングの分野では、窒素以外の気体を混ぜる手法がすでにあるが、何故これを採用しないのか。って、宇宙船内では全員ダッグボイスとかではかっこつかないから?w
 自己レス:深海作業などで窒素を使わないのは、潜水病対策ではなく、4気圧ものエアーを吸うことから来る窒素酔い対策らしい。なお、ヘリウムやアルゴンでも潜水病は起こるが、窒素ほどではないらしい。宇宙では気圧差が少ないことから、無理して高価なヘリウムやアルゴンを(今は)使っていないということなんだろう。
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